451: 名無しさん@おーぷん 2016/11/14(月)15:45:28 ID:G8n
仕事が休みだから部屋を片づけていたら、大昔じいちゃんにもらったメモが出てきた。
すげえ懐かしい。


俺の母ちゃんは、小学生の俺と妹の2こぶ付きで初婚の父ちゃんと結婚したんだけど、父ちゃんは結婚を機に実家の農業を継いだから、必然的に父ちゃんの実家でじいちゃんばあちゃんと一緒に暮らす生活が始まった。
このじいちゃんばあちゃんってのが何ていうかもう天然記念物並みにいい人で(父ちゃんもだけど)、母ちゃんのような「訳アリ物件」をもろ手を挙げて歓迎してくれたばかりか、余計もので愛想もない子供2人を、実の孫もかくやというほど全力で愛で回してくれた。

当時からドのつく田舎だけに、外野にはあれこれ口さがのないことを吹き込む人もいたと思う。
でも家の中はいつも笑いと温かい空気にあふれていた。




母ちゃんの仕事が忙しくていつもアパートに妹と二人きりで、「大人に甘やかしてもらう」ことが少なかった俺は、初めて心の底から安心するような穏やかな気持ちを味わった気がした。
最初は農業はやらない予定だった母もいつしかすっかり家に溶け込んで、毎日笑顔で畑に出るようになっていた。
青白かった母ちゃんの顔がちょっと日焼けして、表情もすごく明るくなったのがうれしかった。

ところが結婚から1年が過ぎた頃、両親が大喧嘩をした。
数日間険悪なムードが漂い続け、その日も学校から帰ると両親の部屋から言い争う声が聞こえてきた。
内容はほとんど聞き取れなかったけれど、端々に「離婚」の二文字が聞こえて足がすくんだ。

廊下で凍り付いていた俺を見つけたのはじいちゃんで、自分たちの部屋に連れて行ってくれた。
ばあちゃんが、じいちゃんの大好物の栗まんじゅうを出してくれてじいちゃんと二人で食べたけど、おいしいはずなのにいつもより味がしなくて、何だかのどに詰まる感じがした。
そんな俺を黙って見ていたじいちゃんは、おもむろにそのへんの紙に何かを書きつけ始め、書き終えると俺の手のひらにぎゅっと握らせた。
俺の手を包むじいちゃんの両手はかたくて温かくて、握る力は痛いくらいに強かった。

紙を開くと、そこには今住んでる家の住所と電話番号が几帳面な文字で書かれていて、ご丁寧にもすべての漢字に振り仮名が振られていた。
じいちゃんはもう一度俺の両手を握ると潤んだ目をしぱしぱさせて、
「おどどおががどったごどさなってもはぁ、こごがなのえだっつごどば忘れればまいや。どさ行っても必ず便りばしこせ。いづだばけえってこいじゃ」
って言ってくれた。
一応訳をつけると、
「お父さんとお母さんがどんなことになっても、ここがお前の家だということを忘れるな。どこに行っても必ず連絡をよこせ。いつでも帰ってこい」
ってこと。
ていうか家の住所と電話番号なんてとっくの昔に暗記してたんだけど。
俺はなんだかすごく安心してそれ以上にうれしくて、じいちゃんの膝に額をぐりぐり押し付けて甘えた。
てかちょっと泣いた。
ばあちゃんも泣いてた。

これほど俺たちを心配させた元凶の両親は、それからまもなくしてケロッと仲直り。
あとで聞いたら
「3人目をつくりたい」
という母ちゃんと
「家族が赤ちゃんばかり可愛がったら2人の子供がかわいそうだから子供はもういい」
という父ちゃんの意見の相違が元々の原因だった。
さらに1年して弟ができたから、喧嘩の勝敗はお察し。


今年はお盆に帰省できなかったから、じいちゃんが「会いに来い」って言ってメモを見せに来たのかな。
年末に帰ったら墓参りに行くよ。
もちろん栗まんじゅうは忘れずに持っていく。



じいちゃんへ